嘘が終わる夜 - 過去語り act.22
Fri.18.10.2013 Posted in 過去語り
■これは奴と付き合う以前の過去を語っているエントリーです。

猫の親子がいた。
母親らしき大きな猫と、母親と同じような模様をした2匹の仔猫だ。

写真に撮れまいかと携帯のカメラを向けたが、その途端、猫達は一斉に逃げて行ってしまった。

辛い環境を生きて人間を恐れているのかもしれない。
可哀想な事をしたと思った。
同時に、良く似た3匹の猫の親子の写真を奴に見せられなくて残念だと思った。

「予約したRです」
「はい、お連れ様は先に見えられてます」

今夜もオレは、奴と会う場所にムードの良いラウンジを選んだ。
上司と部下が飲むだけで毎回そんな場所を選ぶ必要があるのかと、奴もそろそろ気付いても良い頃だった。

本当はもう気付いているんだろう?

いつもと変わらない奴の笑顔を眇めながら、オレは心の中で問った。
もしもそうなら、気付いていながもオレの誘いを断らないのはどうしてだ? と、訊いてみたくなった。
仄かな期待を込めて。
もっとも実際には、そんな事など訊けやしなかったが。

「早いね。もうクリスマスディナーの予約だって」

奴がドリンクの追加をしようとした時、スタッフがメニューと一緒にクリスマスディナーのチラシを持ってきた。
それを見て奴は「ステキだけど、やっぱりこういうところって高いね」と言ったので、オレはちょっとからかってやりたくなった。

「その日だけの特別メニューだし、シャンパンやケーキもセットだからな。食べてみたいなら予約するぞ?」

オレがそう言うと、奴は目を丸くして言葉を詰まらせた。
その顔はとても可愛くて可笑しかった。笑顔のまま固まってしまってな。

「え、いや、こんな高いのは……。それにRだってクリスマスは家族や恋人と過ごすんでしょう?」
「家族と過ごすクリスマスなんて15年前に終わっている。今は特定の相手もいないしな」
「判った、退屈なんだ? クリスマスに予定が何もなくて」
「正解。親しい友人はみんな恋人とデートだ。だけどYも彼女と予定があるんだろうな」

本当はTや友人達に誘われていた。
だが全て断るつもりでいたし、そんな風に言ってみれば、もしかしたら奴がオレと一緒にクリスマスを過ごしてくれるかもしれないと期待した(24日25日は絶対に無理でも)
それに、奴がどんなクリスマスを過ごすのか知りたかった。彼女と一緒に過ごす事は判っていたので、わざわざジェラシーを覚える為に訊くようなものだったが。

しかし、奴は何かを考えるように急に真面目な顔になった。
オレはヒヤッとした。下心を見抜かれたような気がして。

「恋人と過ごす約束をしている。でも判らないんだ、彼女は母国に帰るかもしれなくて」

奴のその台詞にオレは二重の意味でホッとした。
奴はオレを疑っている訳ではないと判って。それと、奴もクリスマスは一人で過ごす事になるかもしれないと判って。もっとも奴は彼女のいないクリスマスを寂しく思って急に真顔になった訳だから、どのみちオレがジェラシーを覚えるのは避けられなかった。

「そうなったら寂しいな」
「うん。そうなったら一緒に飲もうか? ここは高いから他のパブで」
「寂しい者同士が傷を舐め合うんだから、ここで豪勢なパーティをしても良いぞ?」
「駄目だって。暗い顔をしたオレ達が来たら幸せなカップル達の邪魔になっちゃう。もっと侘びしく飲もうよ。肩を寄せあって」
「ますます寂しくなりそうじゃないか」
「あはは、良いじゃない?」

ああ、本当はオレも『それで良い』と思っていた。
大好きな人と一緒なら、どんな場所でだって楽しいクリスマスになるに違いないから。

それに『肩を寄せあって』なんて最高だ。
ガード下にある寂れた飲み屋でグダグダになるまで酔っ酔っ払えは、その勢いでハグや頬へのキスぐらい出来そうに思えた。そして半分本気で、こんなクリスマスを一緒に過ごしてくれるお前を愛してるとも言ってしまえそうだった。

本当にそうならないかと思った。
奴にも、奴のガールフレンドにも申し訳ない話だが。
「だけど、一緒に過ごせたら良いな。彼女、母国に帰らないで」なんて心にもないことを言って罪悪感を誤魔化して。

「まあ、無理だったらRと飲むよ。クリスマス・イブとクリスマスに」
「2日もか?」
「いくら飲んでも放っておいてくれるバーに行こう。良い店を知ってるから」
「判った。ちょっと楽しみにしている。だけど」
「だけど?」
「こんな話をしたら良くないかもしれんが、Yは会社でもモテるからな。彼女いてもクリスマスに一緒に飲んで欲しいって子はいると思うぞ。それなのにオレと一緒で良いのか?」

なんてオレは、自分の気持ちを他人のせいにしてそんな事を口にした。
奴は笑った。そんな人なんていないよ、と。
目の前にいるのに。
彼女がいたって少しでもオレに想いを傾けているのなら、オレはそれだけで満足してしまいそうなのに。

「いや、いる。Yは絶対にそんな事はしないだろうが、寂しい時にだけ呼び出して遊んでくれるだけで満足するって人が」
「うん、しないよ。そんな事は」
「ああ、そんな都合の良い事、お前はしないだろうな。だけど相手はそうじゃない。都合の良いようにされたってお前を恨んだりはしないんだ。お前が会いたいと思った時にだけ会って、普段はまったく他人のフリをしても構わないんだ」

オレは少々、本気のムードで言ってしまったらしい。
奴はまたも笑顔を失くしてオレにこう訊いた。「それは、誰の事?」と。

もしもオレが女だったら、ここで涙を浮かべて「馬鹿」とか言えたかもしれんな。
だが生憎、ガタイの良い強面の同性だ。おまけに上司だ。

オレは落ち着きを取り戻して笑った。
そして、「いや、実際にそういう人を知っている訳じゃない。だが彼女のいるモテ男を健気に想う女の子って、たまにそんな考え方になるものらしい」と言った。心の中で『まあ、女の子ばかりじゃないが』と付け加えたが。

「そうなの? でもオレはそんなズルくなんてなれないよ」
「ああ、Yってそういう性格だよな。一途に彼女を大事にしていそうだ」
「それにオレはそんなにモテません」
「嘘つけ」
「Rこそ」
「オレこそまったくモテません。モテてるならクリスマスは予定でいっぱいだ」
「嘘つき、Rは面食なんだ。でね、本当にクリスマスは暇なの?」
「暇」

さっきのムードは一変して、オレ達はそんな話をしながら飲み直しを始めた。
相手を酔わせる事を面白がるように、相手のグラスにタップリとウイスキーを注ぎ合って。

だがオレはまだ心の中で惜しんでいた。
本当に、奴が少しでもオレに気があって、ちょっとだけズルくなってくれたら……と。
奴に都合の良いように利用されて、飽きたら捨てられても、それでも一時だけでも想いが叶うなら、それだけで十分に幸せであるように思えた。

一度だけでもあの唇にキスが出来たら。
一度だけでも本気で抱き締めてお前が好きだと言えたら。

情けない。
利用される人間なんて哀れでしかないと、様々な事情を抱える人達を見て思っていた筈なのにな。

「そういえばここに来る前に猫の親子を見たぞ」
「へえ、可愛かった?」
「ああ、母親らしい猫の後を、小さな2匹の仔猫がくっついて歩いていた。3匹ともそっくりな模様をしていてな」
「見たい。どの辺りで?」
「ここを出たら見に行くか? 逃げて行ったから、まだあの辺にいるかどうか判らないが」

オレの本音はいつも誤魔化しの会話に塗り潰される。

少し前まではそれも仕方がないと思っていた。
だが最近は、奴が同性愛者に理解のある人間ならば、ほんの少しだけ、気付くか気付かないかの程度に好きだという気持ちを伝えてしまいたいと思うようになっていた。

本音を包み隠してきた『袋』が満杯になって破れたのかもしれない。
あるいは、付き合えば付き合うほど奴が好きになって胸の苦しさが限界になったのかもしれない。

「そろそろここを出て、本当に行ってみるか?」
「行きたい」
「判った」

猫の事で屈託ない笑顔を見せる奴の言うことをなんでも聞いてやりたい心境だった。

あの猫の親子がまたその辺りにいれば良いなと思った。
そうしたら奴はもっと喜んでくれるから。

■今回の過去語りは次回の過去語りに続きます。

にほんブログ村 恋愛ブログ 同性愛・ゲイ(ノンアダルト)へ ゲイの恋愛  国際同性恋愛も
いつも応援して下さってありがとうございます。本日も2つのバナーのクリックをよろしくお願い致します。

コメントはこちら携帯版)へどうぞ。大変に申し訳ありませんが只今コメント返信は不定期とさせて頂いております。

Theme: 男同士の恋愛 « 恋愛

topBack to TOP