嘘つき - 過去語り act.7
Fri.21.12.2012 Posted in 過去語り
*奴と付き合う以前の過去の話です。

チーフから聞いた様々な注意事項を部署の皆に伝えて、それからクリスマスパーティは始まった。

パーティと言ってもほとんど遊んでいる暇はない。始めから終わりまで挨拶と営業だ。
入社して間もない奴は勝手が判らないのでチーフと一緒に会場を回る事になった。

オレはチーフが羨ましかった。
その役目をオレに譲れ! と、チーフの両肩を掴んで揺さぶりたいぐらいだった(笑)

今日の奴は、スレンダーなラインのダークグレーのスーツを着て、華やかなアスコットタイを付けて、パーティの雰囲気に合わせて髪をバックに上げていた。
その雰囲気はエレガントで、いつもより紳士的で……物凄くオレの好みだった。

「もしオレに手伝える事があったら言って下さい」

オレは奴という名の『おこぼれ』を預かりたい一心でチーフにそんな事を言った。チーフも多くのお客さんを抱えている身なので、忙しくなり過ぎたら奴をオレに任せて欲しいと。

けれどチーフにそんな気持ちが伝わる筈もなく、「大丈夫よ、忙しくなったらY君に手伝ってもらうから」という的外れな返事をもらうばかりだった(汗)

パーティが始まってみれば、オレも忙しくてずっとしゃべり続ける状態になった。
大勢の出席者の中から自分を懇意にしてくれる方を探すのもなかなか大変で、うっかりと奴に見とれる暇もなかった。

それでもオレはたまにチラチラと奴に視線を向けた。
奴はチーフの隣で、笑ったり、真面目な顔をしたり、頭を下げたり、空になったお客さんのシャンパングラスを受け取ったりしていた。

気付けばオレは奴の事を気にしてばかりだった。お客さんとの会話の最中にも、意識の3分の1ぐらいは奴に持っていかれていた。

だから、オレがそんな調子だったから、奴と2回も目が合った。
その度にオレは『しまった』と思ったが、すぐに心の中で言い訳をした。

新人の奴の様子が気になるのは上司として当然なのだと、奴もオレの視線をそんな風に思ったに違いないと、自分に都合の良い言い訳を付けて完結させた。

忙しさが一段落したのは、ディナーブッフェの準備が出来て、お客さん達が料理に夢中になった後だった。

オレ達も休憩時間がやって来たとばかりにノンアルコールのドリンクに手を出した。

オレがスパークリングジュースを受け取った時、右方の少し離れた位置に奴がいた。
奴と乾杯ができるチャンスだと思った。けれど、その隣にはチーフもいたので、仕方がなくグラスをもう一つ追加して2人に近付いた。

「メリークリスマス、お疲れ様です」と言って、オレは奴とチーフにグラスを渡した。

「あら、気が効くじゃない」とチーフが言って、
「ありがとうございます。喉がカラカラでした」と奴が言った。

本当ならチーフに渡したグラスはオレが持つ筈だったが、まあ、自分の都合通りにはいかないのが現実というものだ。

暫し3人で話をした。
それぞれの今日の服装がテーマになったので、オレは奴にアドバイスをした。
『ダークグレーのスーツも似合うが、もっとフォーマルな感じのするブラックスーツの方が似合う』といった事を。

それにはチーフも賛成してくれた。
奴は嬉しそうに、けれど照れたように笑って、こう言った。

「Rさんにそう言われると本当にそうしてしまおうかと思ってしまいます。そんな真っ直ぐな目で見られると、それが正しいように思えて」

きっと奴はそんなつもりはなかったのだろうが、さっきオレが奴を見ていた事を暗に指摘したように思えてオレはドキリとした。

けれど間を入れずにチーフが「Rの目って睨んでるみたいだから、あんま真剣な顔で言われると脅されてるみたいになって従わないといけないように思えてくれるんだよね」と言って、奴が「印象的でステキじゃないですか」と大笑いしてくれたので、奴に躊躇の表情を見られずに済んだ。

言ってくれた内容はともかく、チーフに感謝しよう。
たとえ目で追っても、知られる訳にはいかないのだからな。

……それにしても、印象的とか個性的とか、便利な言葉だよな。

けれども、休息時間が終わった後も、オレは性懲りも無くまた奴を追ってしまった。

どんなに『見てはいけない』と自分を戒めても効果はなかった。
特に、悠々と歩きながら微笑んでいる姿がステキだった。紳士然とした雰囲気の中に楽しそうに会場を見回す可愛らしさがあった。

少し長めのブラウニッシュブロンドの巻き毛を撫でたくなった。
堀の深い目元に顔を寄せたくなった。
均整の取れたほっそりとした身体を抱き寄せたくなった。
自ずとそんな事を思ってしまえば胸が締め付けられた。

溜息が出た。
その度に奴に焦がれる気持ちがますます昂り、抱いてはいけない願望──奴を手に入れたいという気持ちまでも込み上げた。

そしてまた奴と目が合うと、それはマズイ事だというのに心が湧いた。

煌びやかなクリスマスのムードに溢れた会場の中で、秘めた気持ちがはち切れそうなぐらい膨らんだ。

もうどうなっても良いように思えた。
全てを感情のままに、オレはお前が好きなのだと全身で訴えてしまいたい衝動に駆られた。

駆け寄って抱きしめてキスをして、後の事など何も考えずに。

やがてパーティが終わる時間が来た。
お客さんをお見送りして、それでオレ達の仕事も終了となった。

その後は恒例の『反省会』を予定していたが(反省会とは名ばかりで飲んだり歌ったり踊ったりするばかりの宴会)、奴もそれに参加するようだったので嬉しかった。

だが、30分ぐらいで奴は帰ると言った。
今日はクリスマス近い週末だったからガールフレンドを部屋に待たせているのだろうとオレは予想した。

奴に興味を示していた女性たちはガッカリしたようだったが、それはオレも同じだった。

最後にどうしても、オレは奴と乾杯がしたかった。
奴が初めてパーティに参加した祝いに。そして自分の溢れ出しそうな気持ちを少しだけでも慰める為に。

皆に帰りの挨拶をしている奴を呼び止めた。
そしてシャンパングラスを差し出して「メリークリスマス」と言った。その言葉に、自分の今日の気持ちの全てを込めて。

「……頂きます」

奴はグラスを受け取って微笑んだ。そしてオレのグラスとぶつけてチンと鳴らして、お互いに一気にシャンパンを飲み干した。

その後オレは、『お疲れ様』と奴言うつもりだった。
だが、そう言う前に奴の顔を見てしまったら言いたくなくなってしまった。

『お疲れ様』は別れの挨拶のようなものだから、自分から切り出すのが嫌になった。ようやく奴と乾杯できて、まだ別れたくなくて、あと少しでも一緒に居たかったから。

オレは奴の方から帰りの挨拶を言うのを待った。
けれど奴は空になったグラスを見詰めて、少し間を置いた後にこう言った。

「今日のオレは、ちゃんと仕事が出来ていましたか?」

奴はまた何の気もなしにそう言ったのかもしれないが、オレは再びドキリとした。

だがオレはすぐに心の中で言い訳を呟いた。
奴はオレが度々を奴を見ていた事に気付いていたのかもしれない。けれどオレは上司として部下の仕事ぶりを見ていただけであり、奴もそう受け止めているに違いない、と。

オレは土壇場になると見苦しいまでに自分の都合の良い解釈しかしなくなる大嘘つきのようだ。
だが奴がオレの気持ちに気付いたとは考えられない。その気のない人間なら、同性の上司と目があったら当たり前のように『チェックされている』と思うものだ。

オレは、「完璧だった」と答えた。
奴は「良かった」と言って、ニッと笑った。

そして奴は「おやすみなさい」と言って、空になったグラスをオレに差し出した。
オレはそれを受け取って「良い夢を」と言った。

奴の唇の触れたグラスが愛しかった。
オレは暫くそれを手にしたまま窓の外を眺めた。

クリスマスを前に混雑した道の中、見付けられる筈もない奴の後ろ姿を探して。

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