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釣瓶落としの夜 2
Fri.17.06.2016 Posted in 恋愛
一階を見て回り、庭を見て回り、最後に残るは二階と浴室だった。

この家の二階の作りは大雑把だ。襖を閉めれば半分に仕切られるが、だだっ広い和室が一つあるのみだ。しかし、そんな作りだからこそ見られる素晴らしさもあった。

オレ達は暗い階段を登って二階に来た。そして古めかしい曇りガラスの戸を開けて数十畳の和室に入った。

昔とほとんど変わっていない懐かしい光景だった。ここもまた青い畳と木の匂いに満ち、そしてオレもまたここで過ごした時の数々の出来事を頭に蘇らせた。10年以上、一度足りとも思い出しはしなかったのに。

「わあ……広いね。純粋な和室だ」

「この家に来るとオレと妹と母はここで眠ったんだ。親父は遅くまで祖父と話をして一階で寝た」

「へえ、こんなに広い部屋で三人だけ。のびのびと寝られたね」

「ああ、殿様になった気分だった。で、この窓を開けるともっと気持ち良く眠れてな」

「窓を? 素敵な景色が見られるのかな?」

その部屋の2つの方向は全面障子戸になっていて、そこを開くと、畑と山が延々と連なる景色が見えた。
朝には緑の作物の上を飛び舞う白鷺、夜には怪しく灯る明りを浴びてざわめく山の木々、そんな光景を眺めながらオレは時間を忘れて様々なものに心を馳せさせたものだった。オレが自分だけの時間を何よりも好きになったのは、ここでその楽しさを覚えたからなのかもしれない。

「灯り、今もあそこにあるね」

「本当だ。あれって何の灯りだったか。教えてもらったが忘れてしまった」

「山の妖怪がこっちに来ないように灯りを照らしているとか?」

「良いな、それ」

「ふふふ、妖怪の話でもしようか? お化けじゃないから怖くないよね?」

「良いぞ、実はこの家にも妖怪が出るって話があってな」

「そうなの? 聞きたい」

「そういえば貴方って日本の妖怪に興味を持っていた時期があったな。ちょっと待ってくれ、立ったまま話したら疲れるだろう? 押入れにまだ座布団はあるかな……」

オレは押入れを開けて中を覗き込んだ。かつてはここに客用の座布団や布団が入っていた事を思い出して。
果たしてそれらは今もあった。オレが「あった」と言うと奴も覗き込んできて、「カラフルな座布団と布団だね」と言った。

「クッションの代わりにな」

「お前が泊まった時に使ったもの?」

「柄まで覚えていないが、さすがに違うだろう。20年も経っているし」

「そうなんだ。じゃあそれに座っても懐かしい気分にはならないね」

「この押入れから出てきたってだけで十分に懐かしいぜ。子供の頃、この中に入って探検とかやったな。何か面白いものが出てこないかって」

「何か出てきた?」

「ああ、宝物が出てきた」

「どんな宝物?」

「ガラスケースに入った貝殻とか和人形とか。木箱に入った万年筆とか。今もあるかな……」

オレは座布団を全て取り出して奥の方を探った。
子供の頃に発見した宝物は残念ながら出てこなかった。だがその代わり、非常に懐かしいものが出てきたので奴にそれを見せた。

「これ、何だと思う?」

「網? まさかボンテージグッズ……」

「違う違う! これは蚊帳(かや)っていうんだ。天井から下げて、その中に布団を敷いて寝る」

「ああ、知ってるよ! ずっと前にお前が教えてくれたよね。蚊を入れない網でしょう?」

「覚えていてくれて嬉しいぜ。今も天井にはフックがあるから掛けられるぞ」

「手伝うから掛けて見せて」

オレ達はピクニックに来てテントを貼るような気分で蚊帳を設置した。部屋の隅にあった踏み台を持って来て、奴はそれに上って蚊帳の紐を上手にフックに引っ掛けた。

久々に見る日本の夏の寝床だった。
よりそのムードを出す為に布団の代わりに座布団を中に並べて敷いて、部屋の灯りを小さく落とし、中に入って座布団で作った布団の上に横たわって天井を見上げた。

「アジアン系のホテルにあるような天蓋みたいなものかと思っていたけど、違うね」

「ちょっと違うな。この中で窓の外を見ると不思議な感じがしないか?」

「怪しくて淫靡な感じがする。ワクワクするようなドキドキするような」

「オレも子供の頃にそう思った。あ、しまった」

「何?」

「大人になったらこの中で酒を飲みたいと思っていたが、そんな事すっかり忘れていたから酒の準備をしてこなかった」

「ここで飲んだらきっと美味しいよ。今から買いに行く?」

「コンビニなら車を走らせて10分ぐらいのところにある。だが今夜はホテルに行くのも車だから、今から酒を飲んだらマズいな」

「ここには泊まれない? 布団もあるんでしょう?」

「ずっと使っていない布団だから止めておこう。20年ぶりのこの景色を眺めるだけで我慢して」

「残念だけど、そうだね。……でも、こうしているだけで酔ったみたいに気分が良いよ。蚊帳のお陰で不思議な気分で、妖怪に妖力を使われたような」

「そういえば妖怪の話をするんだったな……」

「する?」

「山の向こうの怖い妖怪に気付かれないように小さな声で話すんだ」

「山の向こうの妖怪は身体も耳も大きくて、声を潜めないと気付かれてしまうんだね?」

「そうだ。たった今オレが考えた設定だが」

「あはは」

「しーっ」

「ふふ……しー」

実は、蚊帳の中に入った時からオレは悩ましい気持ちに取り憑かれていた。
奴との関係はあれから変わらず、ずっと奴を抱くことを忘れていたが。いや所詮は忘れた振りに過ぎなかったが。

だが蚊帳の中に入った時、オレ達を隔てるあの約束が有耶無耶にされる予感がした。
この妖しさと秘密めいた雰囲気に包まれた瞬間、互いに日常を忘れ、あの約束も忘れて、高揚して溶け出すような気持ちのままにこうなる事を。

3に続く。

2で終わらせるつもりが長くなりました。
本日もお読み下さってありがとうございます。

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