夏が終わる日の日記
Thu.04.09.2014 Posted in 恋愛
玄関の窓の外から猫の鳴き声が聞こえた。
高くて軽やかで、すぐに雌猫のものだと判る声だった。

「来た!」

それまで牛乳を飲みながら甘食を食べていた奴は立ち上がった。
そしてあらかじめ用意していたカリカリ(猫のご飯)をバッと掴んで玄関に向かった。

オレも奴に着いて行った。
そして玄関のドアをそっと開いて、そこで顔を上げて座っている三毛猫とご対面した。

「可愛い……」

奴とオレはほとんど声を揃えて言った。

妹から聞かされていたが本当に可愛い子だった。
小さな顔に大きな目と耳。ほっそりとした身体に長い尻尾。オレは何故か鍵尻尾の猫ばかりを飼ってきたので(シロ子とガーナ子もだ)、その三毛猫がご飯を食べている間はずっと尻尾を撫でていた。

「オレが飼ってあげたい」
「今のマンションは一匹しか飼えない規則だからな」
「あー……。どうしよう?」
「貴方がここから連れて行ったらシロ子は悲しむからな。妹が飼えたら良いんだが、それもなかなか……」

オレ達は途方に暮れた。
こんなに小さな猫一匹、すぐに飼ってやる事ができなくて。
どんなに猫が好きでも、ただ猫好きである事だけでは非力だ。現実的に猫を保護して養える力がないと。

シロ子は窓からずっと三毛猫を見つめていた。
もしも部屋の中に三毛猫を入れてあげられたら、シロ子はどんなに喜んだことだろう? すまない。

==========

「三毛ちゃんを置いて行くのが辛い」
「外で暮らしている限り、病気と事故と妊娠の心配があるからな」
「せめて避妊手術のお金を出してあげない? 飼い主のいない猫が増えるのと猫エイズの不安をなくしてあげたい」
「そうだな。シロ子達の掛かり付けの病院に連れて行って欲しいと妹に頼もう」

三毛猫が帰ってしまった後、オレ達も帰り支度をしながらそんな話をした。
避妊手術だけでなく、結局は誰かが飼ってやることが出来たら良いな……とも話した。

ところで、オレは今回は実家から、いくつかの品を持って帰った。
昭和40~60年時代に出版された本、年季の入ったスカジャン、もう何年も前に亡くなった祖母が縫ってくれた浴衣、入賞メダル……などなど。

浴衣は奴のリクエストだった。
「お前は似合うのに。ぜっかくあるのに着ないのは勿体無いから持って帰ろう」と言われて。

奴の言うように、確かに似合わない事はないと思う。
だが、ますます人相の悪さが引き立つような気がして2回ほどしか袖を通さずにいた。浴衣を着るとサングラスを掛けたくなるファッションセンスが極道系なのだろうが(苦笑)

今年の夏を納める花火は浴衣を着てやった。
奴が「良いな、ステキだな!」と言ったので「貴方が着るか?」と言ったが、「お前が着て。オレは浴衣を着たお前を抱きしめるから」と言われたので素直にそうした。

ささやかだが華やかな花火だった。
どこのスーパーにでも売っているセットのものだったが、子供の頃から馴染んできたその火花を眺めれば少し感傷的な心地にもなった。

大きめのセットを買ったが、2人でやればあっという間になくなった。
両手に花火を持って昼間のような明るさを楽しんだり、その明るさが途切れてしまうのが嫌で次々に火を付けてしまったから。

最後に残ったのは線香花火のように玉がパチパチと小さく弾ける花火だった。
そんな静かなものを最後にやろうと思ったのは、冴え冴えとした夏が終わってしまう事に無意識にも重ねてしまったからなのかもしれない。

奴との夏も終わってしまうのだなとオレは思った。
本当はもっと色々な事をして遊びたかったという名残惜しい気持ちと共に。

「キレイだね。ずっと玉が落ちなければ良いのに」
「落ちてしまうから情緒があって良いんだが、ちょっと落ちるのが早過ぎるよな」
「うん、早すぎる。夏が終わるのも早すぎたよ」
「ああ、夏を過ごした実感が無い」

最後の最後に残ったのは一本の線香花火だった(線香花火もどき、だが)

オレはそれを奴に持たせた。
けれど奴はオレの手を取って自分の手の上に重ねた。1本の花火を2人で持つように。

「花火の良い匂いがする……って、一昨年に貴方は言ったよな」
「言った?」
「ああ」
「オレは覚えてない。よく覚えていたね」
「貴方の言ったことなら何でも覚えているぞ」
「……うーん、嘘。覚えてなかった事もあるよ」
「ははは」
「あ、笑っちゃ駄目。花火が揺れる」

オレはジッとして花火を見詰めた。
しゃべるのを止めて、息をひそめて。

けれど、パチパチと小さな火花を散らしている玉はどんどん小さくなっていった。そして呆気無く、ポトリと地面に落ちてシュンと消えてしまった。

『ああ……』とオレは心の中で息を漏らした。
花火はもう終わってしまったのだから声に出しても良かった筈だが、何となくまだそうしてはいけないように思えて。

奴も同じだった。
何も言わずにオレの肩に頭を寄せた。
そして暫し玉の落ちてしまった花火を揺らしてから、「終わっちゃった」と呟いた。

「終わったな。もっと大きなセットを買えば良かった」
「ううん、これでちょうど良かった。もうこんな時間だから」
「そうか。ちょっと物足りなかった気もするが」
「花火の匂いがなくなったね。でもお前の着物に少し染み付いてるかな」

奴は燃え尽きた花火を持ったままオレの胸に顔を寄せた。
何も言わずにクンクンと匂いを嗅いでいたが、果たして花火の匂いがしたのだろうか?

花火の明かりと音を失くした周囲はとても暗くて静かだった。
さっきまでの賑やかさは、一瞬のうたた寝で見た夢だったようにも思えた。

「……変な感じだな」
「何が?」
「いや。花火が終わってからようやく夜だったのを思い出した、そんな気分」
「ああ……」

オレは奴の手から燃え尽きた花火を取ってバケツへと投げた。
それから奴の肩を抱いて「部屋に戻らないか?」と囁いた。
今、胸の中にある感傷的で、激しく愛しい気持ちが消えない内に奴を抱いてしまいたくて。

どうして唐突にそんな気持ちになったのかは判らない。
だが夏が終わる日なんてそんなものなのかもしれない。
名残惜しさ、ささやかに楽しかった思い出、辛さと悔しさを支えてくれた感謝。そんなものが無意識にも一斉に脳裏に蘇って。

==========

「まだ脱いだら駄目なのか?」
「駄目だよ。ずっと着ていて。浴衣を着ているお前に抱かれたい」
「貴方は相変わらずそういうのが好きだな」
「好きだよ」
「オレも好きだ」

キスをしながら奴はオレの肌蹴た胸を撫でた。
浴衣の襟を割って手を差し込むのが興奮するとか言いながら。

オレもそうされる事に刺激を感じていた。
奴に襟を割られて胸に手を這わされ、乳首にキスをされ、そうされながら浴衣の上から腰や股間を撫で回されてゾクゾクしていた。

正直なところ着慣れない浴衣は足元がもつれて動きにくかったが、今夜はそれをまとったまま、込み上げる勢いに任せて奴をメチャクチャに貪りたいと思った。今夜も少しだけフェティッシュな楽しみ方を交えて。

「縛ってしまおう」
「浴衣の紐で?」
「ああ」
「オレを?」
「貴方とオレを」

オレは浴衣の紐を解いた。
そしてまずは自分の左手首に紐の端を縛り付け、次に逆の端で奴の左手首を縛った。

一つの手錠で繋がれた様になった。
ただそれだけの事だったが、何故かオレは興奮を覚えた。

「どうだ?」
「こういう戦い方ってあったよね? どちらかが倒れるまで鎖で繋がれて」
「戦うか?」
「戦う」

奴もまた「なんだか興奮する」とオレの耳を甘咬みしながら囁いた。
オレも自分の興奮の程を伝えんとして、奴をベッドに押し倒して昂ぶり勃ったものを押し付けた。

8月が終わる時間が来るまで夢中で繋がろうと約束した。
ベッドを軋ませて、感じている声を出し合って、互いの汗を混じらせ合って、夏に果たし切れなかった心残りを昇華させてしまおうと。

戦いの結果は……。

「オレが勝ちだな」とオレは言ったが、
「お前の全てを飲み込んでしまったオレの勝ちだよ」と奴は言った。

ずる臭い判定だ。
それじゃオレは永遠に勝てないじゃないか。

だがそれで良いと思った。
髪をぐしゃぐしゃにしながら眠る寸前の顔で笑った奴が可愛かったから。

夏が終わって秋になってもオレは奴の良い子の奴隷でいよう。
秋になっても一緒に遊んでもらって楽しく暮らしたいから。

オレ達の夏の終わりの儀式は終了。
ただ浴衣は……まだ暫くは使う事になりそうだ。

実は昨夜も使ったが、それはまた後日のエントリーにて。

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本日もを惚気けた長文をお読み下さってありがとうございます。

9月に入ったと思ったらもう5日だ。
まだ昼間は暑いが、夜になると風が涼しくるなる日が多くなった。

皆さんも先月よりは快適に過ごされているか?
都内の代々木公園付近ではデング熱が話題になっているが、早くもっと涼しくなって収束すると良いな。これ以上の被害が出ないように。

今月も皆さんが幸運に日々を過ごせるように応援しています。
皆さんの大切な方も幸せでありますように。

では、今夜も心安らかに楽しい夢を。
おやすみ。

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