告白と再認識 - 過去語り act.20
Mon.15.07.2013 Posted in 過去語り
■これは奴と付き合う以前の過去を語っているエントリーです。

部署での飲み会が始まる前、奴はオレにメールをくれた。

『あとでね』

オレはその一言を数秒見つめて携帯を閉じた。
楽しみだった。何せ奴と飲むのは久しぶりだったから。
だが罪悪感もあった。『まだTとの決着は付いていないのに、良いのだろうか?』と。

飲み会が始まってから、オレは奴の事ばかりを気にしていた。
オレも何人かに踊りの相手を頼まれたが、奴も同じで、奴が女性の手を取る度に嫉妬を感じていた。積極的に奴に抱き付く者がいようなら、『残念だが奴には彼女がいるぞ』と心のなかで冷たく言い放ったりもした。

何人かと踊って、飲んで、食べて、話をして、時間は流れていった。

その間、何度か奴と視線が合った。
その度にオレは視線の行き先をどこに換えたら良いのだろうと悩んだが、酔いが深まるにつれて考えるのが面倒になってそのままで良いように思えてきた。

──好きなんだから、見ていても良いだろう? 見ていたんだ。

なんて、結局そんな度胸もなく奴と視線をすれ違わせた。
奴の横顔を見つめて、こちらに視線が向けられる前に目を逸らして。

そんな事をしている時に、オレの就いていたテーブルで恋愛の話になった。
オレは今は誰とも付き合っていないと周囲に言っていたせいで、『じゃあ、好きな人はいないの?』といった質問をされる事になった。

だが、それに真面目に答えようとは思わなかった。
放っておいて欲しかった。
諦めと葛藤ばかりの恋愛なのだから、ステージのように美しい照明が交差するパーティルームの中でぐらい夢のような妄想に浸らせておいて欲しかった。『奴と度々視線が合うのは、実は奴も少なからず……』といった報われない妄想だったが。

「いないぞ」

オレの躊躇ないその一言は好奇心旺盛な者達を失望させた。
だからオレは「悪いな」と言って席を立った。
残った連中が遠慮無く恋の話で盛り上がれるように。そして、そろそろ『良い頃』だと思ったから。

会場の隅っこのボックス席に座り、バーテンにウイスキーをボトルで運んできて貰った。
そして奴にメールを打った。『向かって右端のテーブルに居る』と。

奇妙なぐらい心臓がドキドキした。
酔ってリラックスしていた筈なのに、奴に誘いをかけるメール送っただけで物凄く緊張した。

まもなく奴はテーブルに来た。
「そのお酒、一緒に飲んでも良い?」と言って。

「水割り、ロック、ストレート、どれが良い?」
「ロックで」

奴はオレが酒を作る手元を眺めてニコニコしていた。
オレはどんな話をしようかと頭を絞るように悩んでいた。いつもなら話題なんていくらでも浮かぶのに。

結局、気の利いた話題が浮かばず、まずは乾杯することにした。
とりあえず雰囲気を盛り上げて、それからどうにかしようと。

……まったく、緊張するにも程がある。どうしてオレは奴が相手だと気を使ってばかりになるのか。勝手に自分の喋りたい事を喋れば良いだけなのに、『奴はどんな話をすれば楽しんでくれる?』と考えてしまって好き勝手にリードする事が出来なくなる。

「乾杯」
「何に乾杯する?」
「今夜の飲み会に?」
「それは最初で全員でやったから、久しぶりにオレ達が乾杯する事に乾杯」

奴はそう言ってオレとグラスをぶつけた。

奴の笑顔と向き合ってしまえば自然と色々な話題が出てきた。
そして、オレはずっと奴とこうして話をしたかった事を思い出した。本当なら奴からの誘いを一度も断らないで、そして自分からも誘って、たくさんの話をしている筈だった事を思い出した。

会話は他愛のないものが多かった。
猫の事(一番多かった)、本の事、音楽の事、買い物の事、仕事の事(一番少なかった)

途中、何人かが一緒に飲みたいとオレ達のテーブルに来たが、全てオレが断った。少々奴に不可解に思われたかもしれないが邪魔をされたくなかった。

やがてお開きの時間が迫ってきた。
2人で随分を飲んだ。
飲み比べの続きをやろうという話にもなったが、それを言い出した時にはお互いにかなり飲んでいたので、「また今度」と奴が言った。

「ああ、今度な」とオレが繰り返すと、
「今度は?」と奴が言った。

「近い内に」
「今月中?」
「そうかも」
「忙しいんだ?」

「まあ、そうだな」とオレが仕事のスケジュールをちょっと大袈裟に説明しようとした時、奴はこちらに向けていた顔を俯かせて「それとも迷惑?」と言った。

思わぬ奴の台詞に胸が痛んだ。
本当はオレが奴とは飲みたくないから忙しいフリをしている……と誤解されるのは嫌だった。

オレは「そうじゃない」と言って奴のグラスにウイスキーを注ぎ足した。
そして自分のグラスにも注いで、それを一気に飲み干した。

酔っていた。
奴への気持ちが物凄く大きくなっていて止められなかった。
だからオレは打ち明けてしまった。
少しだけも本当の事を伝えたくて、自分を悩ませている出来事を、自分の事ではないフリをして。

「実は仕事の他にも色々とあってな」
「プライベートで?」
「ああ。知り合いの話しなんだが、相談を持ちかけられている」
「うん」
「彼氏がいるのに浮気して本気になって、彼氏に別れ話を持ちかけた。彼氏は別れたくないと言ったが、結局は置き去りにしたのと同じだったが説得して別れた」
「うん」
「で、彼氏にも新しい恋人が出来た。だけど素行不良な相手だったから知り合いは心配して付き合いを戻そうかと考えた。まだ知り合いの事が好きだったみたいで、無理をして新しい恋人と付き合っていたようだったから」
「うん」
「だけどその話をする前に彼氏の新しい恋人が交通事故を起こした。彼氏を後ろに乗せたバイクで」
「……」

言ってしまった後でオレは羞恥に襲われた。
我に返って、何でこんな時に言ってしまったのだろうかと躊躇した。
無意識に奴に救いを求めたのかもしれない。懺悔するつもりで、自分のやってしまった残酷な事を許して貰おうとして。そして、こんなオレでも受け止めて欲しくて……?

「人と人との出会いは幸運なものばかりでなく、不幸な結果になる場合もあるから……」

と奴は言った。

随分と遠慮がちに言葉を選んで言っていた。
オレは他人がやった出来事として話したが、もしかするとオレがやった事だと気付いたのかもしれない。

「その知り合いの方は、今はどんな状態なの?」

と、奴が質問した。

だが、それ以上の事は言えなかった。
彼氏をそんな目に遭わせたばかりか浮気相手をも捨てて今はお前に恋をしているなんて、他人のフリをしてでも言えるハズがなかった。

「お前はその知り合いを随分と責めているようだけど、オレは皆の話を聞いたわけじゃないからお前の知り合いだけが悪いとは決め付けられない。浮気はしちゃいけないけど、ずっと隠していた訳じゃないし、心変わりは多くの人が経験している事だし……」

奴は知り合い(オレ)を庇うようにそんな事も言ってくれた。
オレには勿体無いぐらいの救いの言葉だった。

嬉しかった。だが、奴に話す事によって自分がやってしまった事の重さを改めて思い知らされた。
後ろめたくて、本当は自分がやった事だと最後まで告白できなかった。
オレは人としてそこまで恥ずかしい事をしてしまったのだと改めて実感させられた。

それまで奴は笑顔でいたのに、すっかり深刻な顔つきになっていた。
オレは申し訳なくなって奴の肩を軽く叩いた。笑顔を作って、「変な話をした。気にするな」と言って。

自分のそんな問題の事で奴の楽しい気持ちを曇らせたくなかった。
それに、オレも事の重さを再認識したからと言って、それで先日の決意を変えようとは思わなかった。

──たとえずっと奴に想いを告げる事はなくても今よりはマシな自分になって奴に恋をしたい。

その気持ちは変わらなかった。
そうする事によってますますS(以前の彼氏)とTを裏切る事になると判っていても、オレはもう、奴と一緒に過ごす事に未だかつて感じた事のない安らぎを覚えるようになっていた。

奴と結ばれることは決してないのだから。あるいは、もしかするとオレはTに押されてTと付き合う事になるかもしれなかったが。
それでもオレはこの数年間ずっと求めていた心の安堵を奴の中に見つけてしまった。酷い身勝手だと罵られても。

「また話そう。出来れば今月中にね」
「ごめん」
「え?」
「いや、連絡する」
「必ずだよ」
「ああ、その時はまた潰れるまで飲もうな」

やがて会場にパーティが終了するアナウンスが流れた。

奴はオレの背中に手を置いた。
オレは最後にウイスキーグラスを持ち上げて奴を見詰めた。

その時、オレの心はとても鮮明に晴れていたからなのかもしれないが、全てが上手く行くように感じた。
誰もが幸せになれる円満な結末を迎えられると。

あるいは、そういう結末にしようとオレが決心したのかもしれない。何が何でもそうしようと。

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