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嘘が終わる夜 - 過去語り act.22
Fri.18.10.2013 Posted in 過去語り
■これは奴と付き合う以前の過去を語っているエントリーです。

猫の親子がいた。
母親らしき大きな猫と、母親と同じような模様をした2匹の仔猫だ。

写真に撮れまいかと携帯のカメラを向けたが、その途端、猫達は一斉に逃げて行ってしまった。

辛い環境を生きて人間を恐れているのかもしれない。
可哀想な事をしたと思った。
同時に、良く似た3匹の猫の親子の写真を奴に見せられなくて残念だと思った。

「予約したRです」
「はい、お連れ様は先に見えられてます」

今夜もオレは、奴と会う場所にムードの良いラウンジを選んだ。
上司と部下が飲むだけで毎回そんな場所を選ぶ必要があるのかと、奴もそろそろ気付いても良い頃だった。

本当はもう気付いているんだろう?

いつもと変わらない奴の笑顔を眇めながら、オレは心の中で問った。
もしもそうなら、気付いていながもオレの誘いを断らないのはどうしてだ? と、訊いてみたくなった。
仄かな期待を込めて。
もっとも実際には、そんな事など訊けやしなかったが。

「早いね。もうクリスマスディナーの予約だって」

奴がドリンクの追加をしようとした時、スタッフがメニューと一緒にクリスマスディナーのチラシを持ってきた。
それを見て奴は「ステキだけど、やっぱりこういうところって高いね」と言ったので、オレはちょっとからかってやりたくなった。

「その日だけの特別メニューだし、シャンパンやケーキもセットだからな。食べてみたいなら予約するぞ?」

オレがそう言うと、奴は目を丸くして言葉を詰まらせた。
その顔はとても可愛くて可笑しかった。笑顔のまま固まってしまってな。

「え、いや、こんな高いのは……。それにRだってクリスマスは家族や恋人と過ごすんでしょう?」
「家族と過ごすクリスマスなんて15年前に終わっている。今は特定の相手もいないしな」
「判った、退屈なんだ? クリスマスに予定が何もなくて」
「正解。親しい友人はみんな恋人とデートだ。だけどYも彼女と予定があるんだろうな」

本当はTや友人達に誘われていた。
だが全て断るつもりでいたし、そんな風に言ってみれば、もしかしたら奴がオレと一緒にクリスマスを過ごしてくれるかもしれないと期待した(24日25日は絶対に無理でも)
それに、奴がどんなクリスマスを過ごすのか知りたかった。彼女と一緒に過ごす事は判っていたので、わざわざジェラシーを覚える為に訊くようなものだったが。

しかし、奴は何かを考えるように急に真面目な顔になった。
オレはヒヤッとした。下心を見抜かれたような気がして。

「恋人と過ごす約束をしている。でも判らないんだ、彼女は母国に帰るかもしれなくて」

奴のその台詞にオレは二重の意味でホッとした。
奴はオレを疑っている訳ではないと判って。それと、奴もクリスマスは一人で過ごす事になるかもしれないと判って。もっとも奴は彼女のいないクリスマスを寂しく思って急に真顔になった訳だから、どのみちオレがジェラシーを覚えるのは避けられなかった。

「そうなったら寂しいな」
「うん。そうなったら一緒に飲もうか? ここは高いから他のパブで」
「寂しい者同士が傷を舐め合うんだから、ここで豪勢なパーティをしても良いぞ?」
「駄目だって。暗い顔をしたオレ達が来たら幸せなカップル達の邪魔になっちゃう。もっと侘びしく飲もうよ。肩を寄せあって」
「ますます寂しくなりそうじゃないか」
「あはは、良いじゃない?」

ああ、本当はオレも『それで良い』と思っていた。
大好きな人と一緒なら、どんな場所でだって楽しいクリスマスになるに違いないから。

それに『肩を寄せあって』なんて最高だ。
ガード下にある寂れた飲み屋でグダグダになるまで酔っ酔っ払えは、その勢いでハグや頬へのキスぐらい出来そうに思えた。そして半分本気で、こんなクリスマスを一緒に過ごしてくれるお前を愛してるとも言ってしまえそうだった。

本当にそうならないかと思った。
奴にも、奴のガールフレンドにも申し訳ない話だが。
「だけど、一緒に過ごせたら良いな。彼女、母国に帰らないで」なんて心にもないことを言って罪悪感を誤魔化して。

「まあ、無理だったらRと飲むよ。クリスマス・イブとクリスマスに」
「2日もか?」
「いくら飲んでも放っておいてくれるバーに行こう。良い店を知ってるから」
「判った。ちょっと楽しみにしている。だけど」
「だけど?」
「こんな話をしたら良くないかもしれんが、Yは会社でもモテるからな。彼女いてもクリスマスに一緒に飲んで欲しいって子はいると思うぞ。それなのにオレと一緒で良いのか?」

なんてオレは、自分の気持ちを他人のせいにしてそんな事を口にした。
奴は笑った。そんな人なんていないよ、と。
目の前にいるのに。
彼女がいたって少しでもオレに想いを傾けているのなら、オレはそれだけで満足してしまいそうなのに。

「いや、いる。Yは絶対にそんな事はしないだろうが、寂しい時にだけ呼び出して遊んでくれるだけで満足するって人が」
「うん、しないよ。そんな事は」
「ああ、そんな都合の良い事、お前はしないだろうな。だけど相手はそうじゃない。都合の良いようにされたってお前を恨んだりはしないんだ。お前が会いたいと思った時にだけ会って、普段はまったく他人のフリをしても構わないんだ」

オレは少々、本気のムードで言ってしまったらしい。
奴はまたも笑顔を失くしてオレにこう訊いた。「それは、誰の事?」と。

もしもオレが女だったら、ここで涙を浮かべて「馬鹿」とか言えたかもしれんな。
だが生憎、ガタイの良い強面の同性だ。おまけに上司だ。

オレは落ち着きを取り戻して笑った。
そして、「いや、実際にそういう人を知っている訳じゃない。だが彼女のいるモテ男を健気に想う女の子って、たまにそんな考え方になるものらしい」と言った。心の中で『まあ、女の子ばかりじゃないが』と付け加えたが。

「そうなの? でもオレはそんなズルくなんてなれないよ」
「ああ、Yってそういう性格だよな。一途に彼女を大事にしていそうだ」
「それにオレはそんなにモテません」
「嘘つけ」
「Rこそ」
「オレこそまったくモテません。モテてるならクリスマスは予定でいっぱいだ」
「嘘つき、Rは面食なんだ。でね、本当にクリスマスは暇なの?」
「暇」

さっきのムードは一変して、オレ達はそんな話をしながら飲み直しを始めた。
相手を酔わせる事を面白がるように、相手のグラスにタップリとウイスキーを注ぎ合って。

だがオレはまだ心の中で惜しんでいた。
本当に、奴が少しでもオレに気があって、ちょっとだけズルくなってくれたら……と。
奴に都合の良いように利用されて、飽きたら捨てられても、それでも一時だけでも想いが叶うなら、それだけで十分に幸せであるように思えた。

一度だけでもあの唇にキスが出来たら。
一度だけでも本気で抱き締めてお前が好きだと言えたら。

情けない。
利用される人間なんて哀れでしかないと、様々な事情を抱える人達を見て思っていた筈なのにな。

「そういえばここに来る前に猫の親子を見たぞ」
「へえ、可愛かった?」
「ああ、母親らしい猫の後を、小さな2匹の仔猫がくっついて歩いていた。3匹ともそっくりな模様をしていてな」
「見たい。どの辺りで?」
「ここを出たら見に行くか? 逃げて行ったから、まだあの辺にいるかどうか判らないが」

オレの本音はいつも誤魔化しの会話に塗り潰される。

少し前まではそれも仕方がないと思っていた。
だが最近は、奴が同性愛者に理解のある人間ならば、ほんの少しだけ、気付くか気付かないかの程度に好きだという気持ちを伝えてしまいたいと思うようになっていた。

本音を包み隠してきた『袋』が満杯になって破れたのかもしれない。
あるいは、付き合えば付き合うほど奴が好きになって胸の苦しさが限界になったのかもしれない。

「そろそろここを出て、本当に行ってみるか?」
「行きたい」
「判った」

猫の事で屈託ない笑顔を見せる奴の言うことをなんでも聞いてやりたい心境だった。

あの猫の親子がまたその辺りにいれば良いなと思った。
そうしたら奴はもっと喜んでくれるから。

■今回の過去語りは次回の過去語りに続きます。

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はにかむ微笑み - 過去語り act.21
Sat.31.08.2013 Posted in 過去語り
■これは奴と付き合う以前の過去を語っているエントリーです。

「判っているが、どうしても好きなんだ」
「ノンケに惚れてフラれて傷付いてって……ダセえんだよ。アンタ、マジでそれやっちゃうつもりか?」
「後悔はしない。っていうか、他の事が考えられないぐらい好きだから仕方がないって感じだ」
「良くオレにそんなことが言えるな」
「すまない」
「許さない。責任取れ」
「ああ」

Tは今夜もオレのスーツに酒を引っ掛けてくれた。
そしてオレは今夜もTの言いなりになっていた。出来ることなら奴の事を忘れて彼のものになりたいと思いながらも、それが出来ずに罪悪感で胸の中をいっぱいにして。

その後、オレはホテルに誘われた。
酔い潰れて動けないから連れて行け、とTに言われて。

オレは彼を抱えてホテルまで行った。
彼をベッドに寝かせたらすぐに出て行くつもりだった。彼はほとんど意識を失くしているようだったから、二人きりになってももう何かを言われたりはしないだろうと思って。

だが……いや、本当はオレは予感していた。ホテルに行けば更にTに責められるだろうという事を。
それでも敢えて彼に従ったのは、そうされたかったからだった。何の遠慮もなくストレートにオレに憎しみをぶつけて欲しかった。Tの気が済むまで、どんなに酷い事を言ってくれても構わなかった。アイスピックで刺されても良いと思っていた。

「アンタは半端に優しいんだよ。そういうテメェに都合の良い優しさって本当に迷惑だ。オレにも『そいつ』にも、両方にいい顔を見せていたいってだけなんだよな」
「そうなのかもな……」
「大嫌いだ」
「……」
「調子の良い事ばっかり言ってオレを騙して。何がオレとは相性が良いだ。何が楽しくつるめそうだだ。何が……」

オレはTの顔を見ているのが辛くなってTを抱き締めた。
その途端Tはオレにキスをした。
舌を食い千切られるかと思うような憎悪の篭もるキスだったがオレは最後までTに許しを乞うことしか出来なかった。

「すまない。どんな償いでもする。だけどどうしても彼が好きなんだ」

その言葉を何度も繰り返した。

しかし、そこまでオレを慕ってくれるTを抱き締めていれば、『どうせ奴にはフラれるのだからTの望む通りにすれば良いじゃないか』といった考えも浮かんで気持ちが揺らぐ瞬間もあった。
だが、それが出来なかったのは奴への気持ちが大きかった事と、それをしてしまったら自分が今よりもずっと卑劣な人間になってしまうと思えたからだった。

Tの事は、本当に大好きだった。
だのにオレはTに対して、最初から最後まで酷いことしか出来なかった。
オレの浮気から始まって、オレの心変わりで終わってしまった。
Tはオレに『本気を求めない。浮気で良い。遊びたい時だけで良い』と言っていたが、本当は彼の本音はそうでないことぐらい判っていた筈だった。

自分がどうしようもないクズに思えた。
正真正銘のクズだった。
Tの頭を撫でながら一生彼に謝り続けたいと思っている癖に(せめて2人でいる時には彼の事だけを考えていようと思っている癖に)、そうしている時ですらオレの気持ちは奴の方に向いていた。

==========

結局、Tが寝付くまでオレはずっとホテルにいた。
空が明るくなった頃に帰宅して、シャワーを浴びてから出勤した。

偶然にもその日の朝、オフィスのエントランスで奴の姿を見付けた。
奴の姿を見れば昨夜の緊張が一気にほぐれるような思いがして、オレはほとんど反射的に奴に駆け寄って声を掛けていた。

「Y君」
「あ、おはようございます」
「おはよう。飲みに行かないか?」
「え、……ああ、良いけど」
「ん?」
「いや、急に誘われたから驚いたんだ。仕事の事で呼び止められたのかと思ったのに」
「ああ、悪い。Y君の顔を見たら急に飲みたくなってな」
「あはは。オレって酒を思い出させる顔をしてる? オレもRさんの顔を見ると大きなボトルが浮かぶけどね」
「じゃあ大ボトルを10本空けるつもりで飲み比べしような」
「ボトル10本の代金は負けた方が支払うんだよ」
「OK」

本当にせっかちな誘い方だったと思う。
だがあの時は仕方がなかった。どうしてもその瞬間に奴を捕まえたくて、周囲に目もくれずに飛び込んでしまった。

それぞれの持ち場に就く前に飲みに行く日を打ち合せた。
どこの飲み屋に行く?
まだ行ったことのない所? それとも以前一緒に行った所?
待ち合わせ場所は?
時間は?

販売機で飲み物を買って缶が空になるまで話をしたが、奴はこんな事を言った。

「もう誘われないかと思っていた。本当に迷惑じゃない?」

オレは即、「ない」と答えた。
「本当はずっと誘いたかったんだ」と正直に言えば、奴は少し俯いて、自分の唇を白い前歯で噛みながら微笑んだ。

それがはにかんだ笑顔に見えたのは、オレが相当奴に参っている所為だったのかもしれない。
だがとても可愛くて、出来るものなら奴の顔を覗き込んでやりたいぐらいだった。

Tの事はちゃんと頭の中にあった。
深い罪悪感もあったし、これからも侘び続ける覚悟でいた。

けれどオレはハッキリと自覚した。
奴を想う気持ちは、もう自分の意思ではどうにもならないぐらい大きくなってしまったのだと。そしてこのままでは、奴に恋人がいようと、奴が異性愛者であろうと、いつか告白してしまいそうだと予感した。

■お詫び。実は数日前から今までになかった症状で体調が悪くて思うように更新が出来ませんでした。休日が終わったら病院で診てもらうことにします。

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告白と再認識 - 過去語り act.20
Mon.15.07.2013 Posted in 過去語り
■これは奴と付き合う以前の過去を語っているエントリーです。

部署での飲み会が始まる前、奴はオレにメールをくれた。

『あとでね』

オレはその一言を数秒見つめて携帯を閉じた。
楽しみだった。何せ奴と飲むのは久しぶりだったから。
だが罪悪感もあった。『まだTとの決着は付いていないのに、良いのだろうか?』と。

飲み会が始まってから、オレは奴の事ばかりを気にしていた。
オレも何人かに踊りの相手を頼まれたが、奴も同じで、奴が女性の手を取る度に嫉妬を感じていた。積極的に奴に抱き付く者がいようなら、『残念だが奴には彼女がいるぞ』と心のなかで冷たく言い放ったりもした。

何人かと踊って、飲んで、食べて、話をして、時間は流れていった。

その間、何度か奴と視線が合った。
その度にオレは視線の行き先をどこに換えたら良いのだろうと悩んだが、酔いが深まるにつれて考えるのが面倒になってそのままで良いように思えてきた。

──好きなんだから、見ていても良いだろう? 見ていたんだ。

なんて、結局そんな度胸もなく奴と視線をすれ違わせた。
奴の横顔を見つめて、こちらに視線が向けられる前に目を逸らして。

そんな事をしている時に、オレの就いていたテーブルで恋愛の話になった。
オレは今は誰とも付き合っていないと周囲に言っていたせいで、『じゃあ、好きな人はいないの?』といった質問をされる事になった。

だが、それに真面目に答えようとは思わなかった。
放っておいて欲しかった。
諦めと葛藤ばかりの恋愛なのだから、ステージのように美しい照明が交差するパーティルームの中でぐらい夢のような妄想に浸らせておいて欲しかった。『奴と度々視線が合うのは、実は奴も少なからず……』といった報われない妄想だったが。

「いないぞ」

オレの躊躇ないその一言は好奇心旺盛な者達を失望させた。
だからオレは「悪いな」と言って席を立った。
残った連中が遠慮無く恋の話で盛り上がれるように。そして、そろそろ『良い頃』だと思ったから。

会場の隅っこのボックス席に座り、バーテンにウイスキーをボトルで運んできて貰った。
そして奴にメールを打った。『向かって右端のテーブルに居る』と。

奇妙なぐらい心臓がドキドキした。
酔ってリラックスしていた筈なのに、奴に誘いをかけるメール送っただけで物凄く緊張した。

まもなく奴はテーブルに来た。
「そのお酒、一緒に飲んでも良い?」と言って。

「水割り、ロック、ストレート、どれが良い?」
「ロックで」

奴はオレが酒を作る手元を眺めてニコニコしていた。
オレはどんな話をしようかと頭を絞るように悩んでいた。いつもなら話題なんていくらでも浮かぶのに。

結局、気の利いた話題が浮かばず、まずは乾杯することにした。
とりあえず雰囲気を盛り上げて、それからどうにかしようと。

……まったく、緊張するにも程がある。どうしてオレは奴が相手だと気を使ってばかりになるのか。勝手に自分の喋りたい事を喋れば良いだけなのに、『奴はどんな話をすれば楽しんでくれる?』と考えてしまって好き勝手にリードする事が出来なくなる。

「乾杯」
「何に乾杯する?」
「今夜の飲み会に?」
「それは最初で全員でやったから、久しぶりにオレ達が乾杯する事に乾杯」

奴はそう言ってオレとグラスをぶつけた。

奴の笑顔と向き合ってしまえば自然と色々な話題が出てきた。
そして、オレはずっと奴とこうして話をしたかった事を思い出した。本当なら奴からの誘いを一度も断らないで、そして自分からも誘って、たくさんの話をしている筈だった事を思い出した。

会話は他愛のないものが多かった。
猫の事(一番多かった)、本の事、音楽の事、買い物の事、仕事の事(一番少なかった)

途中、何人かが一緒に飲みたいとオレ達のテーブルに来たが、全てオレが断った。少々奴に不可解に思われたかもしれないが邪魔をされたくなかった。

やがてお開きの時間が迫ってきた。
2人で随分を飲んだ。
飲み比べの続きをやろうという話にもなったが、それを言い出した時にはお互いにかなり飲んでいたので、「また今度」と奴が言った。

「ああ、今度な」とオレが繰り返すと、
「今度は?」と奴が言った。

「近い内に」
「今月中?」
「そうかも」
「忙しいんだ?」

「まあ、そうだな」とオレが仕事のスケジュールをちょっと大袈裟に説明しようとした時、奴はこちらに向けていた顔を俯かせて「それとも迷惑?」と言った。

思わぬ奴の台詞に胸が痛んだ。
本当はオレが奴とは飲みたくないから忙しいフリをしている……と誤解されるのは嫌だった。

オレは「そうじゃない」と言って奴のグラスにウイスキーを注ぎ足した。
そして自分のグラスにも注いで、それを一気に飲み干した。

酔っていた。
奴への気持ちが物凄く大きくなっていて止められなかった。
だからオレは打ち明けてしまった。
少しだけも本当の事を伝えたくて、自分を悩ませている出来事を、自分の事ではないフリをして。

「実は仕事の他にも色々とあってな」
「プライベートで?」
「ああ。知り合いの話しなんだが、相談を持ちかけられている」
「うん」
「彼氏がいるのに浮気して本気になって、彼氏に別れ話を持ちかけた。彼氏は別れたくないと言ったが、結局は置き去りにしたのと同じだったが説得して別れた」
「うん」
「で、彼氏にも新しい恋人が出来た。だけど素行不良な相手だったから知り合いは心配して付き合いを戻そうかと考えた。まだ知り合いの事が好きだったみたいで、無理をして新しい恋人と付き合っていたようだったから」
「うん」
「だけどその話をする前に彼氏の新しい恋人が交通事故を起こした。彼氏を後ろに乗せたバイクで」
「……」

言ってしまった後でオレは羞恥に襲われた。
我に返って、何でこんな時に言ってしまったのだろうかと躊躇した。
無意識に奴に救いを求めたのかもしれない。懺悔するつもりで、自分のやってしまった残酷な事を許して貰おうとして。そして、こんなオレでも受け止めて欲しくて……?

「人と人との出会いは幸運なものばかりでなく、不幸な結果になる場合もあるから……」

と奴は言った。

随分と遠慮がちに言葉を選んで言っていた。
オレは他人がやった出来事として話したが、もしかするとオレがやった事だと気付いたのかもしれない。

「その知り合いの方は、今はどんな状態なの?」

と、奴が質問した。

だが、それ以上の事は言えなかった。
彼氏をそんな目に遭わせたばかりか浮気相手をも捨てて今はお前に恋をしているなんて、他人のフリをしてでも言えるハズがなかった。

「お前はその知り合いを随分と責めているようだけど、オレは皆の話を聞いたわけじゃないからお前の知り合いだけが悪いとは決め付けられない。浮気はしちゃいけないけど、ずっと隠していた訳じゃないし、心変わりは多くの人が経験している事だし……」

奴は知り合い(オレ)を庇うようにそんな事も言ってくれた。
オレには勿体無いぐらいの救いの言葉だった。

嬉しかった。だが、奴に話す事によって自分がやってしまった事の重さを改めて思い知らされた。
後ろめたくて、本当は自分がやった事だと最後まで告白できなかった。
オレは人としてそこまで恥ずかしい事をしてしまったのだと改めて実感させられた。

それまで奴は笑顔でいたのに、すっかり深刻な顔つきになっていた。
オレは申し訳なくなって奴の肩を軽く叩いた。笑顔を作って、「変な話をした。気にするな」と言って。

自分のそんな問題の事で奴の楽しい気持ちを曇らせたくなかった。
それに、オレも事の重さを再認識したからと言って、それで先日の決意を変えようとは思わなかった。

──たとえずっと奴に想いを告げる事はなくても今よりはマシな自分になって奴に恋をしたい。

その気持ちは変わらなかった。
そうする事によってますますS(以前の彼氏)とTを裏切る事になると判っていても、オレはもう、奴と一緒に過ごす事に未だかつて感じた事のない安らぎを覚えるようになっていた。

奴と結ばれることは決してないのだから。あるいは、もしかするとオレはTに押されてTと付き合う事になるかもしれなかったが。
それでもオレはこの数年間ずっと求めていた心の安堵を奴の中に見つけてしまった。酷い身勝手だと罵られても。

「また話そう。出来れば今月中にね」
「ごめん」
「え?」
「いや、連絡する」
「必ずだよ」
「ああ、その時はまた潰れるまで飲もうな」

やがて会場にパーティが終了するアナウンスが流れた。

奴はオレの背中に手を置いた。
オレは最後にウイスキーグラスを持ち上げて奴を見詰めた。

その時、オレの心はとても鮮明に晴れていたからなのかもしれないが、全てが上手く行くように感じた。
誰もが幸せになれる円満な結末を迎えられると。

あるいは、そういう結末にしようとオレが決心したのかもしれない。何が何でもそうしようと。

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それでもどうしても愛しくて - 過去語り act.19
Sun.07.07.2013 Posted in 過去語り
■これは奴と付き合う以前の過去を語っているエントリーです。

『今週はもう予定があるんだ』
『その日は仕事だから』

そうやって何度か奴からの誘いを断った。
自分の決意をちゃんとした形にしない限り、誘い応じてはならないと思って。

だが怖かった。
何度も断っている内に二度と奴に誘って貰えなく(奴を誘っても応じて貰えなく)なるような気がして。
だからオレは必ず最後に言い足した。『都合の良い日にオレの方から誘いたい』と。

都合の良い日とは、奴に後ろめたい気持ちを抱かなくなる日の事だった。
以前の恋人にしてしまったことを思えば完全になくす事は永久に無理だと判っていたが、それでも今よりは自分の無責任な行いを償った上で奴に恋をしたかった。

それからTに本当の事を告げる事にした。
オレには今、とても好きな人がいるのだと。
その人には女性の恋人がいるし、オレはこれからも以前の恋人との事を忘れられないから告白はしないが、それでも物凄く惚れていて他の誰の事も考えられないのだと。

「オレにも好きな人が出来た」

週末の深夜、オレはTをクラブに呼び出してそう告げた。今のオレの気持ちを包み隠さず、かつての恋人に対する後悔と罪悪感も、奴に対する想いもすっかりと告白した。

だがTの反応はクールだった。
オレの話に感情的になることもなく淡々とした態度を崩さなかった。

「気付いてたよ。てかさ、気付かないワケないだろう? でも、なんだ、女と付き合ってるノンケか。じゃあ無理だな。せいぜい1年であんたは諦める。だったらオレと付き合え」
「出来ない。お前と付き合えないのは、前にも言ったが、もう以前みたいに想ってないからだ」
「違うな。あんたはS(以前のオレの彼氏)に対して物凄い罪悪感があるからそう思ってるだけだ。そのノンケの外人を好きになったのだって、あの事件を忘れたかったからだ」

そんな会話が何度もループした。
オレは何度も「そうじゃない、本当に」と言った。
だがTは頑としてオレの言葉を否定した。ついには舌打ちをして、クラブの客席だというのにいきなりオレにキスをした。

Tは自分の欲求を満たす事に躊躇しない男だった。相手の立場を考えるよりも迷わず自分を優先する男だった。

親にも誰にも自分の言いたい事を言えずに育ったオレはTのそんな性質に惹かれた。
だが今回ばかりは困り果てた。
オレが告白することによって火に油を注いでしまった。Tは奴がストレート(ノンケ)である事を知るやいなや自分にとって都合の良いシナリオを書き、それを全うさせる為に話を進めた。

もっとも、本来それは理想的といえるシナリオだった。
オレもそうするべきだと思っていた。だが奴を好きになった事でできなくなって無責任にも放棄した。

だからTは至極まっとな事を言っているに過ぎなかった。
オレの方がおかしかった。自分の欲求の為に無茶苦茶を言っているのはオレの方だった。

「現時的に考えろよ。一生誰の事も好きにならないなんて無理なんだ。あんたは1年経ってその外人を忘れたらどうせ他のヤツに惚れるんだ。そんなの冗談じゃねえ。オレを何だと思ってる?」
「すまない。どんな償いでもする。だが以前のようにお前を想うことはできない」
「ダメだ。オレはあんたとSが別れるのを待っていた。前みたいにオレと付き合え。出来ないなら殺してやるか?」
「すまない」
「1年まで待ってやる。あの時のあんたに戻れ」

彼は大きな目でずっとオレを睨みつけていたが、何となくそのキツイ目付きが痛々しく思えた。彼の声もまた、どこか掠れているように聞こえた。

Tの言葉はどれも辛かった。
だが、Tにそれらの言葉を言わせてしまったのはオレだった。以前のTは楽しい事ばかりを言っていたのに。

「踊ってくる」
「オレは帰るけど浮気するなよ、R。オレももうおっさん(Tの今の彼氏)とはセックスもキスもしないから」

「じゃあな」とTはオレの耳元で告げて席を立った。
オレは踊る気になどなれず、ずっとテーブルでウイスキーを飲んだ。

──そうしてしまった方が良いように思えてきた。
自分もそれが正しいと思っているのなら、そうするべきなのだと。

だが翌日、オレはオフィスで奴と会って、その決意をするのはとても難しいと実感した。

「おはようございます」

奴は今朝も明るい笑顔で挨拶をしてくれた。
オレは思わずそれに見入った。
きっと奴はおかしく思っただろうが、何故か奴の顔を見るのが懐かしくて暫く目を逸らす事が出来なかった。呆然と夢の中で出会ったように奴を見詰めていた。

「……おはよう」

数秒の後、オレは挨拶を返した。
奴は軽く首を傾げて、「寝不足? それとも考え事をしてた?」と小声でオレに訊いた。

「両方。頭が回らなかった」
「昨夜はどこで飲んだの?」
「クラブ。◯◯の」
「夜更かしするぐらい楽しかったんだね。オレは退屈だったから混ざりたかったよ」

オレは心の中で苦笑して、「今度一緒に行こう」と言った。
果たして奴を堂々と誘える日はいつになるのだろうかと思いながら。

それから仕事のスケジュールの話などをした。
そして数日後に行われる部署での飲み会の話になった。

「Y(奴)と飲むのは久しぶりだな」
「そうだね。楽しみにしているんだ」
「オレもだ。飲みながら話がしたいな、本当に久しぶりに」

奴はそう言って微笑んだ。
オレは奴の誘いを何度も断ってしまったが、奴はまだオレを嫌っていないようで安心した。

会社の行事なので奴とだけ長く話をすることは出来ないだろうが、それでもプライベートな事をちょっとだけでも親しく話せたら嬉しかった。

以前のように。
あるいは、これが最後の機会になっても諦める決心を付けられるように。

その気持ちはオレの背中を押した。
こんな事を奴に言うつもりは毛頭になかった筈なのに、『これが本当に奴と親しく飲める最後の機会になったら』……と、その気持ちに押されてこう言った。

「会場はいつものところだから、終わる頃にボックス席で2人で話さないか?」

突然のそんな誘いに、きっと奴はまた訝しんだ事だろう。
何せ相手は同性の上司なのだから、仕事上の注意でもされるかもしれないと警戒したかもしれなかった。

だが奴は笑顔で、「判った」と言った。
オレはホッとした。
奴と何を話すかも決めていなかったが、大切な夜にしたいと思っていた。

いつも長くお待たせして申し訳ありません。今後は以前よりちょっと文章を短くして週に最低でも1度は書こうかと検討しています。 「それでも良いよ。更新が止まるよりは!」 と思って下さる方はランキングバナーのクリックをお願い致します。あまり要望がなかったら今まで通り長文&ゆっくり更新にしておきます。
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八つ当たり - 過去語り act.18
Sat.18.05.2013 Posted in 過去語り
■これは奴と付き合う以前の過去を語っているエントリーです。

Tの彼氏(以降D氏)は芸能関係の企業に勤める人だった。
ほんの一時だったがオレも殺陣やアクションをメインとしたプロダクションに所属していた事があったので、業界の裏話などを折り込んで話はかなり盛り上がった。

楽しい飲み会になりそうだった。
D氏はとても落ち着いた風の人だったが好奇心は強く、オレの知るアブノーマルな世界にとても興味を示した。

TはD氏の隣で、しゃべるよりも食べる事に夢中になっていた。
だがオレがフェチやSMに関するシークレットな話をすると、箸を止めて顔をニヤリとさせた。

2時間もすると酔いが回った。
そんな時、不意にD氏の携帯電話が鳴った。
D氏は「ちょっと失礼します」と言って席を立った。

Tと2人だけになったオレは、さっそくお決まりな質問をTに振った。
「随分良い人だな。どうやって知り合ったんだ?」と。

「あんたにゃ関係ねー」
「やばい場所で知り合ったんだな」
「決め付けんな」
「じゃあ言ってみろ。やばい場所じゃなかったら謝ってやるぞ」

そんな風にオレが挑発すると、Tはオレに手招きをした。『もっと傍に来い』と言うように。
オレは斜め前の席に座っているTに顔を寄席た。何か耳打ちをされるのかと思って。
だがTはオレの顔を両手に挟み込むと、いきなりオレにキスをした。

驚いて身体が固まった。
Tはかなり酔っていたので、悪ふざけでそんな事をしたのだと思った。

だが、唇を離してみればTは泣いていた。
「そんな質問するんじゃねえよ」と呟いて、テーブルの上に腕を組んでそこに顔を伏せた。

「酔ったな」
「ああ……」
「水を頼むか?」
「放っておけ」
「心配なんだ」
「……」
「放っておけないぞ」
「……うん」

オレはTの茶色い髪を撫でた。
本当はこんな状況の時にそんな事はしない方が良かったのだろうが、オレの悪い癖でしてしまった。
あとでまたTに怒られそうだと覚悟した。『その気がないならもう優しくするな』と。

「吐きそう。食べ過ぎた」
「トイレに行くか?」
「もう帰る。おっさんに送らせて」
「判った」
「……なあ」
「ん?」
「また会いたい」
「……ああ」

そう返事をするべきではなかった。
オレはTを大切だと思っているが、さっきのキスは戸惑いと罪悪ばかりをオレに感じさせた。

オレはTとD氏を応援するつもりだった。
さっき2人が楽しそうに寄り添っている姿を見た時は泣けるぐらい嬉しかった。

だが、オレはもしかするとD氏を裏切ってしまうのかもしれなかった。
Tが望むなら、どんな事でも、オレはTを拒めそうになかった。

『流されるな。それがお前の一番悪いところだ』

ふと、『彼』がかつてオレに言った言葉を思い出した。

出来るかな? とオレは心の中で彼に問った。
彼は、『やらなくちゃならないんだ』と答えた。当然、その声はオレ自身の決断だったのだろうが……。

TとD氏と別れた。
時間はまだ22時だった。

愚かなのはオレで、すべての元凶もオレだった。
だがオレはそれを認めながらも何かに八つ当たりしたい気分になっていた。

知人が経営する飲み屋に行った。
そこでクセの強い焼酎をボトルで頼んでかなり飲んだ。

嫌な酔い方をした。
全ての人間がオレを責めているように思えて、Tもオレを苦しめる為にあんなキスをしたのだと決め付けた。……いや、本当にそう信じた訳ではなかった。自分のネガティブな不安や自信の無さがそんな風にオレを脅かした。

飲み屋のママ(胸だけを手術しているニューハーフ)に「もう帰れ」と言われた。
オレは反抗したが、手荒く酒も料理も取り上げられたので渋々と外に出た。

タクシー乗り場まで来たが、そのまま帰るのは癪だった。
激しい憤りが腹の中で煮えたぎっていて、それを吐き出さなくては、とてもじゃないが帰れなかった。

オレは携帯を取り出した。
そしてアドレスを開いてオレの親友(ボストン君)に電話した。

なかなか出なかったが何度も掛けてやった。
週末だから彼氏と暢気にセックスでもしているのかと思えば、オレの腹ただしさは何倍にも膨れ上がった。

しつこく4回目に掛けた時にようやく彼は出た。

「ずっと出なかったけど何をしてたんだ?」とオレは不躾に訊いた。
「風呂に入っていた」と彼は答えたが信じなかった。「彼氏が来てるんだろう? なんで隠すんだ?」と、何の根拠もなく決め付けて彼を問い詰めた。

「じゃあ来るか?」
「行かない」
「酔っ払ってるな?」
「シラフだ」
「今、どこだ? 動けないぐらい酔ってるなら何とかしてタクシーを拾ってオレのところに来い」

ボストン君は相変わらず面倒見が良かった。
だがオレはそれにムカムカした。

オレは心の中で彼に当たり散らした。
そんな優しい言葉を掛けたって貴方はオレを愛しちゃくれない。家に行ってもキスすらしてくれない。そもそもオレがこんな立場になったのは誰のせいだ!? ──等と。

「眠ったか? 聞こえているか?」

オレが黙り込んでも彼はオレを案じてくれた。
だがオレにはそれが物凄く辛かった。
自分から電話を切る事は出来ないくせに、彼には『早く電話を切っちまえ!』と望んだ。

「起きてる。このまま死ぬかも」
「早くタクシーに乗れ。それとも拾えないのか?」
「走ってる、さっきからいっぱい」
「乗れ」
「嫌だ」
「どうした?」

「うるさい」とオレは口にした。
彼にそんな言葉を利いたのは初めてだったが、それまでずっと腹の底に隠してきたものを少しでも外に出してしまえば、後は機関銃を撃ち放つように次々と言葉が飛び出してしまった。

「あの時、何で貴方はあの人を選んだ? なんでオレの心にもない言葉を信じた? 貴方はオレの本当の気持ちを判っていたはずだ! 貴方が待ってくれたらオレはこんな事にはならなかったんだ!」

それは酷い八つ当たりだった。
素直に本当の気持ちを言えなかったオレが悪かったくせに、何年も経った今になってそんな事をいきなり言うなんて気が狂ったとしか言いようがなかった。

ボストン君はそれでも家に来るようにと言った。
だがオレは「行けるか、馬鹿! 二度と会うか!」と怒鳴って電話を切った。

馬鹿はオレのくせに。しかもこれ以上ない最低の馬鹿のくせに。

彼にそんな電話をしてしまって物凄く後悔した。恥ずかしかった。
電話を切った後、彼から数回電話が掛かって来たが、とてもじゃないが出られなかった。

終電もなくなってしまったので道の端に座り込んだ。
いわゆる体育座りをして、膝の上に頭を乗せて泣いた。

Tはオレのような馬鹿ではない。
だが、今のオレとTの言葉(気持ち)が重なっているように思えて、Tへの申し訳なさが深まった。

少しだけ奴の事が頭に浮かんだ。
だがこんなオレが奴の事を思ったら、それだけで奴を汚してしまいそうですぐに頭から消し去った。

今夜はそのまま頭を冷やす事にした。
だが、途中で警官に起こされてしまった。

仕方がなくファミレスに入った。
飲みたくもない珈琲を頼んで、テーブルの真ん中にそれを置いて、朝が来るまで呆けたようにボンヤリと過ごした。

始発が動く時間になって、オレは迷った末にボストン君にメールした。
『昨夜のことを許して欲しい。あの時も昨夜もオレが悪かった』と書いて。

自宅に到着する前に彼から返信があった。
『眠れたか?』と、昨夜のオレの発言には全く触れずに。

オレはホッとした。
昨夜の事はなかったことにすると、彼に言ってもらえたように思えて。

だが寂しくなった。
もうずっと長い間、たまに唐突に燃え上がったり冷めたりを繰り返してきた彼に対する密かな憧れは、これで完全に幕を閉じてしまわなくてはならないように予感して。

彼は見事なまでに過去を振り返らない人だった。
オレにとても優しく接してはくれたが、オレに先(未来)へ進むように勧める人だった。一度たりとも『一緒に立ち止まろう』と言って手を取ってくれたりはせずに。

彼との付き合いはまるで絵に描いたように、すれ違い、すれ違い、すれ違いだった。
彼に彼氏が居る時にはオレは独りで、オレに彼氏が居る時には彼は独りだった。

部屋の中でも体育座りをして涙を零した。
Tの事もボストン君の事も悲しかった。
だが2人の事を考えながらそうしている内に、オレもボストン君のように振る舞うべきなのだと思った。

誠実に、優しく、けれども、どんなに愛情や同情を感じても流されたりはせずに。
オレは彼にそんな風に接されて、寂しくはあったが居心地が良かったから。そして良い関係を続ける事が出来たから。

更新が遅くなって遅くなって申し訳ありません。続きは必ず近日中に掲載しますm(__)m
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