ねえ、ムーミン
Tue.01.05.2012 Posted in 恋愛
帰宅した奴は浮かない顔をしていた。
職場か学校で何かあったのかと思って、オレは奴に事情を訊いた。

「電車の中で2分ぐらい眠って夢を見たんだ」
「夢?」
「一瞬だったけど、とてもハッキリ見た。まるで現実みたいに」
「どんな?」
「5才ぐらいの時、父親の車で買い物に行った時の夢だった。オレはお菓子を買ってもらった。ムーミンの人形の中にお菓子が入っているやつだ」

ムーミンとは可愛いな。と、オレは奴に笑いかけようかと思った。
だが、奴はいきなり涙を零して顔を両手で覆ってしまった。

オレは奴から幼少期の話を聞いていたので、すぐに奴の心の中を察した。
奴はたまにそれを思い出しては涙する(感情の昂りが続いた時になど、ごく稀にだが)
家族の間で『事件』と呼べる出来事が起きたのをキッカケに、楽しかった過去の思い出がことごとく色褪せてしまった事を。

「そのお菓子、オレが買ってやるぞ」

オレがそう言うと、奴は泣き続けながらも頷いた。
オレは奴の頭を撫でながら、自分の幼少期にあった一コマを思い出していた。

もうどんな歌だったのかも思い出せない。
母親はその歌を涙声で歌いながらオレの髪を梳かしていた。
当時オレは母親に嫌悪の念を抱いていた。だがそんな悲しそうな声で歌われると、オレまで悲しくなって涙が零れそうになった。

愛人を作って暴力を振るう父親も大嫌いだったが、ヒステリックな言葉をわめきちらして狂言自殺を繰り返す母親はもっと苦手だった。
名前を呼ばれれば嫌悪に震えて、触れられればそこを洗い流す程だった。

けれど、それでも母が父に泣かされていると、オレを頼ろうとする母を突き放すことは出来なかった。
「パパとママが別れたら、Rちゃんはどっちの方に来る?」と質問されれば、母親の方に付いて行くと答えた。

嫌悪とは裏腹に同情の念が常にまとわり付いていた。
オレはひ弱な母を毛嫌いしながらも、そんな母を哀れんで一種の屈折した愛情を感じていたのかもしれない。
それ故にオレはますます母親に対してどう振る舞って良いのか判らず、避けるばかりとなったが。

「ごめんね、急に泣いたりして」
「いいや、愛してるぞ」

奴にキスをして、奴の好きな珈琲を淹れた。

「優しいね」

と奴は言った。

奴に優しくしたいのは当然だが、それだけではなかった。
ここには暴力も悲しみも存在していないという事を、オレが奴に優しくする事で証明したかった。

せっかく出会ってここまで仲良くなれたのだから。
大きな諍いもトラブルもなく上手く過ごしているのだから。
わざわざ自ら辛い思いを作り出すことはないんだ。

ところで、そのムーミン。
奴に詳細を訊いたが、どうも日本では売っていないようだ。

買ってやると約束してしまった手前、困ったな(汗)

欧州方面で売られていないか、ボストン君に頼むしかないか。
だがもう二十年以上前に売られていたお菓子なので、もうないのかもしれない。

という訳で、
オレは暫くムーミンを求めて三千里だ。

上手い具合に見つかれば良いんだがな。
きっと奴は大喜びしてくれるから。

皆さんにも、もう手に入らない思い出の品というものがあるのかもしれない。
そういうものがまだ身近にある方は、どうかそれを大切にして欲しい。
失ってしまったらもう二度と手に入らないものは、結構この世の中にたくさんあるのだから。

では、今夜も楽しくて幸せな夢を。
おやすみ。

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